コールセンターには音声認識システムやチャットボットなど多くのAIシステムが導入されてきましたが、効果が出ないケースも多いのが実情でした。そんな中「ChatGPT」の登場によってAIを用いたコールセンター業務効率化が再燃しています。この記事ではChatGPTの活用領域やリスクを含めて、コールセンターにおけるChatGPT活用の可能性を解説します。
目次
ChatGPTとは
コールセンターにおけるChatGPT活用領域
リスクへの備え
活用事例
弁護士ドットコム(チャットボット)
PKSHA FAQ(FAQ自動作成)
DigestCall(VOC分析)
まとめ
1. ChatGPTとは
ChatGPTは、米OpenAIによって開発された自然言語処理AIです。人間のように自然なテキストを生成し、自然言語での質問応答や対話を行うことができます。
プロンプトと呼ばれる手法を用いると、指示や事例を与えることで様々なタスクをChatGPTに実行させることが可能です。こういった背景から、カスタマーサポート、質問応答、対話型チャットボット、テキスト生成、文書要約など、さまざまな分野の業務自動化に利用されています。
また、参考ドキュメント付きでChatGPTで文章生成する技術(RAG; Retrieval Augmented Generation)も重要です。検索されたドキュメントをプロンプトとしてChatGPTに与えて文章生成をさせることで、ドキュメントに記載された内容に基づいた文章を生成することができます。これはChatGPTが誤ったことをそれっぽく話してしまう問題(ハルシネーション)に対する有効な対策とされています。
以下は、渋谷区のごみ回収日を質問した例です。参考ドキュメントを与えないと回答できませんが、スケジュール表を与えると、RAGという技術によってドキュメントに記載された内容に基づいた回答してくれます。
2. コールセンターにおけるChatGPT活用領域5選
コールセンターにおいてはChatGPTをどのように活用できるのかご紹介します。
ChatGPTが活用可能なのが、主に以下5つの領域です。
チャットボット
オペレーター支援
FAQ自動作成
VOC分析
人材育成
■チャットボット
チャットボットは顧客サポートや問い合わせ対応の自動化に利用されるシステムです。従来のチャットボットはあらかじめプログラムされたシナリオに依存していたため、予期せぬ質問や複雑な問い合わせに対して適切な回答することが困難でした。
ChatGPTはユーザーの質問意図や文脈を適切に理解し、それに基づいて回答を生成するので、複雑な問い合わせにも柔軟に対応できます。
またRAG (Retrieval Augmented Generation) という技術を用いることで、ChatGPTに自社の知識を参照させながら回答を生成することも可能です。
■オペレーター支援
ChatGPTでコールセンターのオペレーターの様々な業務を支援することができます。
リアルタイム音声認識でテキスト化し、ChatGPTに応対中の問い合わせ内容を要約してもらうことで、対応中の内容理解を容易にします。
さらに、要約された問い合わせ内容で回答に必要なナレッジを検索し、オペレータに提示することもできます。
検索されたナレッジに基づいてオペレーターの回答文そのものを生成することも可能です。
また、対応終了後にChatGPTに応対履歴を生成してもらうことで、ACWの大幅な負担軽減が見込めます。
■FAQ自動作成
ChatGPTを用いたFAQの自動生成により、人手による作成業務の大幅な削減が可能です。
FAQには、Qとなる質問文と、Aとなる回答文が必要です。代表的な作成手順には2通り存在します。
1.問い合わせログからよくある質問を抽出し、その質問の回答に必要な情報を社内ドキュメントから検索した後、回答文を作成する
この方法では、すでに顕在化している問い合わせに対して必要量の回答を用意することができます。ただし、新商品や新キャンペーンといったまだ世に出されていないものに対してはQAを用意できないため注意が必要です。
2.社内ドキュメントを網羅的にChatGPTに読み込ませ、想定される質問と回答のペアを列挙する
この方法では、社内に用意された様々なドキュメントから体系的にQAを作成することができ、まだ顕在化していない問い合わせに対しても先手でQAを用意しておくことができます。ただし、ほとんど問い合わせが存在しない、いわゆるロングテールのQAも大量に生成されてしまう可能性があります。
■VOC分析
VOC分析は、顧客からの問い合わせや苦情、要望などを収集・分析し、顧客対応やサービス改善につながる示唆を見つけ出すプロセスです。
コールセンターには応対時にオペレーターが記録した応対履歴がテキストデータとして保存されています。この履歴をChatGPTに要約・カテゴライズしてもらうことで、VOC分析業務の省人化を実現できます。
応対記録に十分な情報が記載されていない場合は、対応時の音声データを音声認識システムでテキスト化し、このテキストをChatGPTに分析してもらうことが有効です。こうすることで、応対記録には記載されていない情報を収集することができます。
VOC分析は、顧客の問い合わせ動機である「コールリーズン」単位で行われることが多いです。コールリーズンへの分類はChatGPTに丸投げではうまくいかず、割当先のコールリーズンをどのように設計するかの点も非常に重要となります。
コールリーズンの重要性と活用方法については以下の記事で詳しくまとめています。
■人材育成
ChatGPTをオペレーターの人材育成に活用することができます。
ChatGPTを顧客と見立て、応対のシミュレーションをすることで、実際に近い顧客対応のシナリオを体験することができます。様々な顧客タイプや問題を体験することにより、オペレーターは実際の顧客対応に備えた練習を積むことができます。
ChatGPTは音声対話機能を備えているので、実際に発話して訓練することもできます。
また、ChatGPTが応対履歴を分析し、応対品質に対するフィードバックを提供することも可能です。これにより、オペレーターは自身の強みや改善すべき点をより明確に理解し、スキルを磨くことができます。
3. リスクへの備え
ChatGPTをコールセンターで活用するにあたって、大きくふたつの課題が指摘されています。
ChatGPTに入力したデータの管理方法における「セキュリティ面の懸念」と、ChatGPTが事実に基づかない内容をもっともらしく生成してしまう「ハルシネーション問題」です。
■セキュリティ
個人情報が記載されたデータをChatGPTに送る場合、学習に使われてしまうのではないかという点と、個人情報流出の危険性が指摘されています。
学習への使用に関しては、個人情報ChatGPTを提供している米OpenAIが利用規約に「入力されたテキストを学習に利用することはない」と明文化していることから、活用に踏み切る企業も増えてきている印象です。
また、個人情報の保護に関しては、セキュアな環境かつSLAで可用性が保証されているMicrosoftの「Azure OpenAI Service」を活用することで安全性を担保することができます。
東京都職員の業務活用においても「Azure OpenAI Service」が活用されているそうです(出典)。
■ハルシネーション
ChatGPTは